『しんがり 山一證券 最後の12人』『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』などで知られる著者の最新書き下ろし。今回の舞台は警視庁捜査二課。2001年に発覚した外務省機密費流用事件、官邸・外務省を揺るがせたこの事件を掘り起こしたのは名もなき刑事だった。
容疑者は、着服したカネで次々と愛人を作り、競走馬を何頭も所有する外務省の「ノンキャリの星」。地道な裏付け捜査と職人技を駆使した取り調べ、そして容疑者と刑事の間に生まれる不思議な人間関係。
機密費という「国家のタブー」に触れてしまった二課刑事(ニカデカ)たちを待っていたのは――。
人間の息遣いが聞こえるヒューマン・ノンフィクションの誕生
清武英利さんの本いいんですよね。ピリピリとした緊張感が伝わってきます。さすが第一線で活躍した方ですよね。僕は大好きです。賛否両論あるでしょうが、間違いなく世間を揺らした人ですからね。いい本を書いてくれるんで毎回楽しみです。
アマゾンのメディア掲載レビューを載せておきます
マンションに愛人、12頭の馬主……ある外務省職員が陥った機密費の闇
個人口座に億単位の預金を持つ外務省のノンキャリア職員がいた。男は年平均1億円もの金を現金で入金している。そんな異様な金の流れを追うのは警視庁のベテラン刑事。
内偵捜査を続けると、男は都心のマンションに愛人を住まわせ、12頭の競走馬の馬主でもあった。いったいこの大金はどこから流れてくるのか?
警視庁での任意取り調べで「しゃべったら殺されます」と男はつぶやく。密室の攻防……、追い詰められた男はついに自供する。
「あれは領収書がいらないカネなんです……。総理の外遊時の経費です」
使い込んだ金は、男が官邸から預かった「機密費」の一部だったのである。意図せずパンドラの箱を開けてしまった叩き上げ刑事たちは仰天する――。
「石つぶて」は、2001年に発覚した外務省職員による横領事件捜査の裏側に迫ったノンフィクションである。著者は元新聞記者。冒頭、ややスピード感に欠ける印象を持った。初見の読者にとって、まだ役割不明の人物が登場し、感情移入できぬうちに詳細な経歴が描かれたりする。
やがて姿を現す主人公は、検察特捜部の花形検事や捜査一課のデカでもなく、二課の「情報係」という地味なセクションに所属する変わり者の刑事。このあたりから本書は興味深くなる。情報係とは、汚職などのネタを一から拾い集め、裏取りし、事件になりそうなネタを主力メンバーに引き渡す黒子のチームだ。その内偵捜査はまさに知られざる世界だ。
例えば、刑事たちは「捜査関係事項照会書」という書類を印籠にして、水道局や電力会社などを訪れる。捜査対象者が料金を払っているか? その支払い方法は? などと聞き出して口座振替の銀行を特定。今度はその銀行の支店を探って口座を割るのだという。
それにしても驚かされるのは、機密費という金の使われ方だ。外務省の要人外国訪問支援室長という立場にいたこの男。総理一行が外遊先の迎賓館などに招待されても、ホテルなどから入手したレターヘッド付き用紙に自ら「◯百万円」と書き込んだ領収書を偽造。官邸はチェックもせずに札束を渡していたという。
結局、男は10億円近い金を自身の口座に入金し、うち5億円以上を詐取したとして逮捕、起訴された。こうして事件は一応の解決をみるのだが、ところがその後、捜査に関わった二人の情報係刑事は突然に左遷されたというのだ。やはり「機密費」の闇というものはどこまでも深く、恐ろしいものらしい。
評者:清水 潔
(週刊文春 2017.09.28号掲載)
石つぶて―警視庁 二課刑事の残したもの
外務省の役人が機密費を着服、私的流用していた事件を覚えているだろうか。供述によると、詐取した額は5億円以上。競走馬やマンションの購入、愛人へのプレゼント代などに消えた。
2001年に起きた大事件。捜査二課の4人の刑事を中心に、どうやってこの使い込みの事実をつかみ、証拠を拾い集め、取り調べで供述させ、立件したのか。それを追ったのが本書である。
著者の『しんがり』や『プライベートバンカー』と同じように、本書も丹念な取材を重ねているため、会話の再現性が高く、小説を読んでいる気分になる。特に証拠固めの捜査や、取り調べの過程は臨場感たっぷりで一気に読み進んでしまう。
国へも警察へも不信感がぬぐえぬ昨今だが、人知れず泥臭く仕事をしている人は必ずいるのだ。
評者:大川恵実
(週刊朝日 掲載)
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