今でも暇があると美術館に行って絵を眺めている。もちろん、それほどの絵に対する知識と教養があるわけではないので、美術館が準備してくれる音声ガイドを必ず借りるようにしている。ガイドさん付きの美術館巡りは、本当に楽しい。
一番最初に好きになった絵は、ブリューゲルの『バベルの塔』である。僕は百科事典の付録についている美術史部分のこのページを繰り返し眺めていた。神をも恐れない人間の欲望とその儚さを、この絵の中を彷徨いながら味わっていたのだ。
その次は島田章三の『母と子のスペース』。この絵の圧倒的な迫力に僕は心奪われて動けなくなってしまった。こんな人間の仕事とは思えないものをぶつけられて、心から驚いたのを昨日のことのように思い出す。すごい作品だった。
3番目は、この本にも登場するピカソの『ゲルニカ』だ。僕は岡山県にある大原美術館で30年ほど前に見たような記憶がある。しかし、どの資料を探しても、そんな展示をしていた記録がないので夢だったのかも知れない。その夢は本当にリアルだ。
向かって右側にゴーギャンが展示されていた。この絵も大きかったが、『ゲルニカ』は恐ろしいほど巨大で灰色と黒と白で構成された絵から叫び声が聞こえてくるような気がした。ジェノサイドから逃げ惑う生物の根源からの叫びだった。
生きているうちに見ておくべき絵はたくさんあると思う。自分を変えてくれるような絵を探し求めるのも良いだろう。そして世界を変えてくれた絵を自分の目で確かめに行くのも良いと思う。そういうことにお金を使うなら惜しくない。
そんな風に絵に対する思い入れを持つ僕が紹介したいのは、原田マハさんです。
アート小説の旗手として圧倒的人気を誇る原田マハが、自身の作家人生に強い影響を与えた絵画はもちろん、美術史のなかで大きな転換となった絵画や後世の芸術家に影響を与えた革新的な絵画などを厳選。画家の思い、メッセージ、愛や苦脳を、作家ならではの視点で綴る。『楽園のカンヴァス』でモチーフとなったルソー、『ジヴェルニーの食卓』で描かれたモネ、『暗幕のゲルニカ』のピカソといった、原田作品ではおなじみの絵画はもちろん、古典、日本画、現代アートを含む全二六点を掲載。豪華カラー図版収録。
おすすめします。是非是非、読んでみてくださいね。